『自分ごとの政治学』でわかる現代政治|右・左だけでは語れない“2軸モデル”を初心者向けに解説
「政治の話はよくわからない」
「あなたは右の人か左の人か、と聞かれても答えづらい」
そのような感覚を抱いたことはありませんか。
実はその”違和感”は自然なものです。
現代の政治は“右か左か”というラベルだけでは、捉えきれないほど複雑になっています。
この記事では、本書『自分ごとの政治学』を手がかりに、政治をわかりやすく整理するための〈2つの軸〉を紹介します。
①リスクを個人で担うのか、社会で支えるのか
②価値観の違いに寛容か、介入的か
これら2つの軸モデルです。
これらのフレームで政治を見ていくと、自分の考えがどこに位置するのか、政権や政党がどんなスタンスなのかがクリアになります。
政治は、遠い世界の話ではなく私たちの生活そのもの。“誰かが決めること”から、“自分ごととして考えるテーマ”へ。
そのヒントが書いてあるこちらの本を、本記事でお届けします。
政治が“遠く”感じられる理由
”政治”という言葉を聞くと、確かに身構えてしまう人が多いかもしれません。選挙や国会のニュースは目に入るのに、「自分とは関係のない話」のように思えてしまうときがあります。しかし、私たちは日常で無意識のうちに「政治そのもの」に触れています。
家庭のルールづくり、学校や会社での合意形成、地域の決まりなど。これらはすべて「どうすればみんなが気持ちよく暮らせるか」を考えるいとなみ。
政治と本質的に同じことです。
政治は“遠い場所の作業”ではなく、私たちの生活の延長線上にあるものなのです。

右派・左派のイメージはどこまで有効なのか
政治の話でよく出てくる「右か左か」という分類は、「フランス革命期」の議会の座席配置に由来します。
おおまかに言うと、
- 右派:伝統や秩序を重視する
- 左派:平等や変革を重視する
とされます。ただし、実際には右、左の人のなかにも複数の立場が存在します。
左派には、国家の力で福祉を進めるタイプもいれば、コミュニティ主義的に“自発的なつながり”を重視するタイプもいます。右派にも、原理主義的な立場から伝統への回帰を求める人もいれば、漸進的な改良を重視する保守派もいる。
つまり、右と左という二分法自体がすでに時代とともに複雑化し、そのままでは現代政治を整理しにくいのです。

『自分ごとの政治学』が示す“2軸モデル”
本書で示されるのが、『右と左』に代わる新しい政治の見方です。それが次の2つの軸です。
① リスクの個人化/社会化(政府の役割の大きさ)
病気・失業・介護・災害など、誰にでも起こりうるリスクを、
- 個人がどこまで引き受けるか
- 社会がどこまで支えるか
社会の姿は大きく変わります。
個人に任せるほど“小さな政府”へ、社会で支えるほど“大きな政府”へ近づきます。
② 価値観の寛容/介入(生き方の自由度)
同性婚、家族の形、ライフスタイルなどに対して、
- それぞれの選択を尊重するのがリベラル
- 国家が“望ましい形”を示そうとするのがパターナル
この2つをX軸・Y軸にとると、政治の立場は4象限に分かれ、自分の考えや政党のスタンスを立体的に位置づけられます。

日本政治・安倍政権はどこに位置するのか
本書の分析では、安倍政権は 「リスクの個人化寄り × パターナル寄り」に分類されます。
●価値観:パターナル寄り
- 選択的夫婦別姓に慎重
- 同性婚の議論にも消極的
- 本人が「反リベラル」と明言
→ 個人の価値観より、社会としての「あるべき姿」を重視する傾向があります。
●政府規模:小さな政府寄り
租税負担率、公務員数、国家の歳出比率を国際比較すれば、日本は欧州諸国より明確に“小さな政府”寄りになります。
- 税率:欧州より低め
- 公務員数:北欧やフランスの半分以下
- 国の歳出比率:主要国より小さい
「福祉国家のような大きな政府」というイメージとは異なり、日本は構造的に“個人の負担”が大きくなりやすい国だと言えるでしょう。

政治と経営はつながっている
政治学が扱うのは、意思決定、利害調整、合意形成。
実はこれは、企業経営と同じ構造です。
- 方針を決める
- チームをまとめる
- 利害を調整する
- 最適な選択肢を選ぶ
こうしたプロセスは経営者が日常的に行っていることであり、その根底にあるのは「政治」と同じです。
さらに、政治は企業にとって外部環境でもあります。税制や規制、補助金、人口動態など、政策ひとつで事業の未来が左右される。だからこそ、政治リテラシーは経営においても避けて通れない視点になっています。

自分が望む社会を言葉にすることから始めよう
理想だけを言えば、私は
- リスクを社会で支える大きな政府
- 生き方の自由度が高いリベラルな社会
を望んでいます。
しかし現実を見れば、
- 税金の使い道への不信
- 物価上昇と給料の伸びなさ
- 社会保障の負担の増加
といった問題が重なり、「理想どおりでいい」とはいえません。
さらに大きいのは、“誰が私を代表しているのか”という疑問です。
政治家が市民の声を見ているのか、制度が公平に働いているのか。そこへの不信が、政治を“遠いもの”にしてしまう。
だからこそ、まずは自分なりの基準を持つこと。「どんな社会を望むのか」「どんな制度を良いと思うのか」それを言葉にしていくことが、自分ごとの政治の第一歩になります。

おわりに|政治は暮らしそのものなのです
政治は、生活と切り離された専門領域ではありません。家庭、職場、地域での意思決定と同じく、私たちの暮らしを形づくるものです。
右か左かという単純な軸ではなく、リスクの個人化/社会化 × 価値観の寛容/介入 という2軸で見ることで、政治は驚くほどわかりやすくなります。
小さな学びと対話が、未来を少しずつ変えていく。この記事が、その第一歩になれば嬉しく思います。
「自分ごとの政治学」を読み、一番心に残ったところを抜粋して本記事を終わります。
「地球環境のことについて考えましょう」といった時に、突然アマゾンの熱帯雨林のことを考えるのは、やはり遠い感じがしてなかなか難しいところがあります。
けれど、今晩のおかずについては誰もが考えるでしょう。その時に何を食べようということから、その野菜や肉はどこでどんなふうにつくられているのかというところまで考えてみる。そこから地球温暖化の問題・生態系の問題に行き当たるかもしれない。そんなふうに自分の生きている世界と政治とがどのようにつながっているのかを意識的に考えてみてほしいと思うのです。
国際関係がどうだと拳を握り、振り上げることが政治に関心を持つということではありません。食べることだけではなく、着ること、移動すること、買うこと、そんな日常の一つ一つに繊細になってみる。
普段意識していなかったところに意識を向けてたどっていくと、必ず様々な政治問題にたどり着きます。
日常丁寧に生きなければ、本当の政治に出会うことができないのだと思うのです。
『自分ごとの政治学』P97~P98より抜粋
政治を自分ごととし、理解するための視点をわかりやすく説明されている本でした。
