九頭竜川 【本の要約と感想 】
福井県に流れる九頭竜川で祖父と娘が鮎釣りをはじめた物語。
鮎釣りに興味がある方や福井県(特に嶺北地方)の歴史や風土を知りたい人におすすめの一冊。
随所に福井の風習や地名、時代の原風景が垣間見られます。福井出身の著者が故郷への想いがあふれる感動的な作品です。

新田次郎文学賞受賞作品
あらすじ
家族愛があふれ、舞台は福井県を中心に流れる九頭竜川流域。
時代は戦後復興後の福井地震で、両親と祖母を失った少女となっています。昭和20年代、高校を卒業したばかりの庄田愛子(主人公)が目指したのは祖父と父の後を継ぐ九頭竜川の鮎釣り漁師だでした。
空襲・震災・洪水と戦中、戦後に数々の試練に見舞われた地域に生きる祖父と孫娘の鮎漁師の物語です。復興に立ち上がる市民たちの姿。祖父のあとを継ごうと、鮎(あゆ)漁師として生きようと決心する愛子。夏は釣り人、冬は福井市浜町の厨房や仲居として働くなかで愛子が仕事の楽しみを知り始めた。
たった一度の人生を男性の補助的存在で終えることが果たして、本当に幸せな一生なのだろうかと問い続ける。愛子は生涯自分の仕事を持ち続けたいと思うようになる。
みどころ
桜の散るように潔く、祖父である源造は漁師らしい最後を選択する。
怪我を負った源造は孫娘である愛子に尋ねる。
「もういっぺん見てみたいもんじゃ。九頭竜を。」
遺書の短い文章を机の下に置き、納得のいく方法で源造は生を完結させます。
残された愛子は後ろを振り向かず、「九頭竜の鮎になりたい」と悔いなく生きようと誓う。鮎は一年しか生きないからです。
復興に立ち向かう福井県民の描写、九頭竜川の特徴も小説のなかで見事に描かれています。
感想
九頭竜川は福井県の代表的河川であり、北陸地方きっての天然鮎の好漁場となっています。「コシヒカリ」をはじめ、豊穣をもたらす母なる大河でもあります。
小説のなかでは至るところに県花である「水仙」、観光地である雄島や東尋坊など福井県の風土や特徴、県民の勤勉性までもが散りばめられていた。
著者は福井県出身で、ふるさとを想う描写が随所に見られます。
以前、釣りは親子の数少ないコミニケーションツールだったといいます。最近は釣りの経験がない親も多く子供と一緒にという機会も減っています。学校では水に近づくのは危ないと教育し、水道で遊ぶ楽しみよりも水に対する恐怖の刷り込みで釣りも川遊びも遠くなっていくのが現実ではないでしょうか。
しかし、人と水の付き合いは切っても切れないもの。
生きるための知恵や危険を知る意味でも幼い頃から水と親しむことは大事だと私は思います。
そして、自分で釣った魚は美味しいもの。
「お父さんが釣った魚は美味しい」
この言葉が聞けるようにも、たまにはお子さん連れて釣りに行きましょう。
