福井県に流れる九頭竜川で祖父と娘が鮎釣りをはじめた物語。
鮎釣りに興味がある方や福井県(特に嶺北地方)の歴史や風土を知りたい人におすすめの一冊。
随所に福井の風習や地名、時代の原風景が垣間見られ
福井出身の著者が故郷への想いがあふれる感動的な作品です。
1.本のタイトル、著者、出版社
タイトル:九頭竜川
作者:故・大島昌宏
出版社:つり人社
新田次郎文学賞受賞作品
2.あらすじ
家族愛があふれる物語。
福井県を中心に流れる九頭竜川流域。
空襲・震災・洪水と戦中、戦後に数々の試練に見舞われた地域に生きる祖父と孫娘の鮎漁師の物語。
復興に立ち上がる市民たちの姿を背景に、鮎漁師として生きようと決心する愛子(主人公)。
時代は戦後復興後の福井地震で、両親と祖母を失った少女。
昭和20年代、高校を卒業したばかりの庄田愛子が目指したのは祖父と父の後を継ぐ九頭竜川の鮎釣り漁師だった。
3.みどころ
桜の散るように潔く
祖父である源造は漁師らしい最後を選択する。
怪我を負った源造は孫娘である愛子に尋ねる。
「もういっぺん見てみたいもんじゃ。九頭竜を。」
遺書の短い文章を机の下に置き、
納得のいく方法で生を完結させた。
鮎は一年しか生きない。
残された愛子は後ろを振り向かず、
「九頭竜の鮎になりたい」と悔いなく生きようと誓う愛子。
復興に立ち向かう福井の描写、九頭竜川の特徴をも小説のなかで見事に描いている。
4.感想と共感
愛子は九頭竜川で育った。
川の流れに背を背けるのではなく
流れに向かって生きていく生き様をみせる。
実家の不幸(福井地震で親を失う)で就職の内定が取れなく学校を卒業した愛子。
祖父のあとを継ごうと、
夏は釣り人
冬は福井市浜町の厨房や仲居として働くなか
愛子が仕事の楽しみを知り始めた。
たった一度の人生を男性の補助的存在で終えることが果たして、本当に幸せな一生なのだろうかと問い続けた。
生涯自分の仕事を持ち続けたいと思うようになる。
5.独自の視点
九頭竜川は福井県の代表的河川であり、
北陸地方きっての天然鮎の好漁場。
九頭竜はこしひかりをはじめ豊穣をもたらす母なる大河であった。
至るところに県花である「水仙」、雄島や東尋坊など福井県の風土や特徴、福井県民の勤勉性まで散りばめられていた。
著者は福井県出身
ふるさとを想う描写が随所に見られる。