地域のこと

【本要約】『 まちづくり幻想 』木下斉

ひろし

【現場のリアル】地方創生は「よそ者」や「補助金」ではうまくいかない理由

──『まちづくり幻想』から見えた、失敗の本質


「まちづくり幻想」とは何なのか、それが生じる原因、背景やその構造をひとつひとつ丁寧に明らかにし、まちづくりにかかわる全ての人にエールを送る一冊となっています。”

まちづくり幻想の著者について

著者:木下斉
“高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。
2008年より熊本市を皮切りに地方都市中心部における地区経営プログラムの全国展開を開始し、多くの地域事業に携わる。著書多数。”

はじめに|地方創生って、そんなに簡単じゃない

「地方創生」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?

  • 補助金を取ればうまくいく
  • よそ者・若者・バカ者がいれば地域が活性化する
  • 成功事例を真似すればOK

──そんな幻想が、地方の再生を妨げています。

以前、私は地域事業に関わっていたことがありました。補助金も、外部人材も、過去の成功例も見てきましたが、現実はそう甘くありません。

この記事では、私が現場で感じた違和感と、『まちづくり幻想』(木下斉著)から得た視点を交え、地方創生の本質に迫ります。

誤解その① 補助金があれば地方は復活する?

補助金は“使い方”次第です。確かに、ありがたい制度ではありますが──

一度頼り始めると、「予算がないからやらない」という思考停止に陥ります。

木下氏は『まちづくり幻想』の中で、こう指摘しています。

「立派な箱モノを作れば地域が活性化する」という共有幻想が行政の中にあり、何を“つくるか”ばかりが議論される。失敗した場合の責任も考えずに、予算を獲得することが目的になっている。(p.241)

この姿勢が続けば、夕張市のように多額の借金を抱える自治体が増えるだけです。

補助金はあくまで手段。地域の主役は、地元の人間と地元の企業です。

誤解その2 人口を増やせばいい?

「人口減を止めよう」というスローガンには、力があります。

しかし現実には、出生率の低下、移住のハードル、教育や就職の選択肢の少なさなど、人口増加の前提が崩れている地域も多いのです。

「ウィズ過疎化」──減少を前提にした戦略が必要な時代です。

木下氏も指摘しています。

地方の人口減少は“原因”ではなく“結果”である。稼げる産業が減り、予算依存が進み、教育も東京のヒエラルキーに組み込まれた。だから人が流出する。(p.41)

誤解その③ 成功事例を真似すればOK?

林業で町おこしに成功した事例を見て、「うちも林業を」と考える──これは、よくある話です。

でも林業資源がない土地でそれを真似ても成功はしません。

木下氏はこう言います。

地域に必要な事業は、どんなに優秀な人でも“見ただけ”では分からない。「これをやったら再生する」と言い切る人がいたら、それは詐欺師です。(p.6)

重要なのは、「何をやるか」ではなく、「誰とやるか」そして「誰に任せるか」

本質は、100人の合意より、1人の覚悟です。

誤解その④ 「よそ者・若者・バカ者」が地域を救う?

「よそ者が『まち』を変える」──そんな成功例もあります。

しかし、継続的に地域を支えられるのは、そこに暮らし続ける地元住民です。

木下氏も、「地域おこし協力隊の多くが成果を出せていないのは、すべてが手探りだからだ」と述べています。(p.181)

やはり、地域の未来を託すなら、生活者として覚悟を持つ人こそが主役であるべきです。

誤解その⑤ 地方には仕事がない?

「地方には仕事がない」という声をよく聞きます。

でも現場では、「人が足りていない・・・」のが実情です。

私の住む市内でも、外国人実習生に支えられている現場がたくさんあります。一方で、地元の若者は働き手として戻ってきません。

仕事がないのではなく、“魅力ある仕事”として伝えられていないのです。

『まちづくり幻想』から学んだこと

木下斉さんの『まちづくり幻想』は、30年にわたり地方の現場を見てきた著者による注意喚起の書です。

この本で特に印象に残ったのは以下の3点です。

1. 行政がつくる「立派な失敗」

立派な施設を建てても、それが収益を生まない限り、地域の負債になるだけ。
それでも「予算を取ってくる人が偉い」という文化が行政には根強く、事業の“維持”ではなく“新設”が優先される。

2. 地域を変えるのは「構想」ではなく「人」

成功の鍵は「何をやるか」ではなく「誰がやるか」。
補助金に頼った事業ではなく、自らリスクを取り、地元の課題と向き合える人材こそが地域を変える。

3. 地域の貧困は“安売り文化”のせい

「安くて良いものを提供するのが美徳」という幻想が、地方を疲弊させている。
地域が本当に豊かになるには、“稼げる構造”が必要なのだ。(p.51)

地方創生は「声をあげること」から始まる

今の時代、誰もが発信者になれます。

  • SNSでの発信
  • ブログでの記録
  • YouTubeでの挑戦

「このまちをもっと良くしたい」──その想いを言葉にすることから、地方創生は始まります。

あなたの声が、誰かの共感を呼び、仲間を増やしていくのです。

おわりに|幻想を脱ぎ捨て、本質に向き合おう

地方創生は、甘くありません。

しかし、幻想を見ずに本質と向き合う地元で実践する人たちが増えていけば、地方にはまだまだ希望があります。

「誰かがやる」から「自分がやる」へ。

『まちづくり幻想』は、それを始めるために注意を促してくれた書物でした。

地方創生、地域活性というニュースからイメージされる前向きなイメージこそ幻想で、その多くの裏では、本書で細かく説明されているような、現実とは異なる部分が多く存在するのであろう、ということを知ることができたことが一番の収穫です。

本書を読まれて、地域事業にもう少し詳しくなりたい方は、木下斉さんの著書を読むことをおすすめいたします。


▼こちらの本で参考になった動画

「まちづくり幻想」についてYouTube(ユーチューブ)で紹介している動画がないか調べてみました。
「上念司チャンネル ニュースの虎側」チャンネルで議論している動画があり非常に面白かったので是非一度ご覧ください。

PAGE TOP
記事URLをコピーしました